木造(在来工法)の構造設計の理解を深める(その2)

 昨日、木造(在来工法)が、どんな構造基準に基づいて設計されて、地震に対する安全性を確保しようとしているのかについて勉強したところです。.
 1.木造(在来工法)の構造設計を行う壁量計算も、鉄筋コンクリート造などの構造計算の許容応力度計算と同じ流れに属していること。許容応力度計算を簡単にしたのが壁量計算ということ。
 2.水平力=地震(台風)に対して、木造(在来工法)は耐力壁で負担すること。
 3.耐力壁の強さが、地震(台風)に対する木造(在来工法)の強さと言えること。
 4.耐力壁の強さは、一次設計(中地震に対して)の強さで決められて、二次設計(大地震に対して)も同時に満たしているということ。
 5.耐力壁の強さは、層間変形角1/120が基準になっていること。.
 ここで、またまた疑問が出てきました。
 
 1.一次設計と二次設計には、どれくらい差があるのか。耐力壁は、どれくらい限界まで余力が残っているのか。
 2.二次設計で想定している地震力を超える力がかかったとき、どうなってしまうのか。
 
 それらについて、今日は勉強してみました。
 (マニアックなので、興味がある方だけどうぞ。).
1.一次設計と二次設計には、どれくらい差があるのか。耐力壁は、どれくらい限界まで余力が残っているのか。.
 昨日書いた「壁耐力の算出方法」の中で、短期基準せん断耐力Paを決める方法は、以下の4項目の数値の一番小さいものを使うことだ出てきました。
 ①降伏耐力Py
 ②終局耐力Pux(0.2/Ds)
   Ds=1/√2μ-1
 ③最大荷重Pmaxの2/3
 ④層間変形角1/120の耐力
 この中の②と③が、限界時を基準に求められている数値になっていますので、ここから限界までどれくらい余力があるのかがわかりそうです。.
 最大荷重Pmaxの2/3ですから、≒67%です。 
  
 終局耐力Pux(0.2/Ds)の数値が67%よりも少なければ、そちらが採用されるし、大きければ67%が採用されるので、67%以上は耐力壁が強さを使わずに余力を残していると言えます。.
 これは、壁の種類(筋かい、合板、貫・・・)によって、余力に違いがあるということでもあります。
 67%よりも変形量1/120で先に決まってしまった壁の場合は、更に変形が進む(1/100とか1/75とか)と67%の耐力に達することが考えられます。変形量1/120の時は、50%くらいしか発揮していないというように。
 変形量1/120よりも、降伏点の方が早いような壁の場合は、それだけ固い壁と言えます。あまり変形しない状態で、降伏してしまう(変形が残ってしまって元通りにもどれなくなってしまう)ことになります。それでは、壁の強さはあったとしても、中地震で変形してしまうので実用的ではありません。
 
 話をまとめると、
 (1)耐力壁は中地震のとき67%の力を使い、大地震まで33%の余力は残している。
 (2)層間変形角1/120よりもっと大きな変形で、降伏耐力に達するほうがいい。
 (3)層間変形角1/120時点では、、最大荷重Pmaxの2/3以下の耐力しか使っていない方がいい。
 ということが言えます。
 
 (2)と(3)をもう少し簡単に言うと、
 ”層間変形角1/120で決まった壁の方がいい”ということになります。
 
 
2.二次設計で想定している地震力を超える力がかかったとき、どうなってしまうのか。
 
 耐力壁の強さ=壁倍率の算定は、最大荷重Pmaxの2/3に基づいていますので、最大荷重を超える荷重に耐えることはできません。.
 最大荷重=二次設計で想定する荷重です。
 どうしてそう言えるのかというと、その理由は壁倍率を決める項目の一つに
  終局耐力Pux(0.2/Ds)
   Ds=1/√2μ-1
 があるからです。
 
 0.2は、標準せん断力係数C0に該当し、C0は許容応力度計算の地震力算定で使われます。
 地震力は、建物をせん断する水平力ですので、層せん断力Qiで求めます。.
     Qi=CixWi
        Ci=ZxRtxAixCo
          Z:地震地域係数
          Rt:振動特性係数
          Ai:せん断力の分布係数
          Co:標準せん断力係数
          
  C0は、一次設計=0.2 二次設計=1.0です。
  C0=1.0は、建物重量に相当する層せん断力を考えていることになります。
  
  耐力壁の壁倍率を決める項目の中にC0=0.2が使われていることから、許容応力度計算の層せん断力の一次設計に相当することがわかります。.
 もう少し補足すると、一次設計=0.2 二次設計=1.0は、一次設計で地震力80~250ガル、二次設計で250~400ガルを想定しているので、80/400ガルは0.2になります。.
 ちなみに、0.2/Dsというのは何を表しているのか。
 
 Dsは構造特性係数です。
 構造特性係数Dsは、構造の塑性化(加力が取り除かれても、ひずみ・変形が残ってしまう状態)に伴って、入力地震力→加力が低下することを表しています。最大荷重Pmaxから、0.8Pmaxに荷重が低下している状態です。
 試験時、荷重は加えられ続けて、壁が破壊するまでおこなっていますが、荷重を加え続けているのにPmaxを過ぎると低下していく状態が、塑性化に伴って加力が低下している状態です。
 Dsは、ねばり強い構造ほど小さな数字になります。
 
 0.2/Dsは、ねばり強さを表しています。
 粘り強い構造ほど、Dsは小さくなります。
 逆に、粘り強く無い=もろい構造はDsが大きくなり、0.2/Dsは小さくなり、二次設計まで余力を残す方向に働きます。
 ねばり強い構造なら、一気に壊れないから余力をそんなに見なくてもいいし、もろい構造なら、一気に壊れる可能性があるので余力を見ておこうということです。
 このDsを取り入れる理由、C0=0.2のまま使わないのは、粘り強くてももろくても、一律0.2=20%しか一次設計のときには見ないのは、非経済的ですし、構造計画の自由度を損なってしまいます。.
(構造特性係数Dsの補足説明は、別紙「構造特性係数Dsについて」を参照ください。).
 ちょっと話がずれましたが、耐力壁の強さは、二次設計以上の力がかかると壊れてしまうということです。
 どういう壊れ方をするのか、ゆっくり壊れるか一気に壊れるかは、壁の種類によって差があります。
 
 耐力壁の考え方では、柱頭・柱脚よりも先に耐力壁が壊れるように考えています。
 二次設計時の状態になったとき、耐力壁が壊れても、まだ柱は壊れていません。
 そして、在来工法の場合は、地震力だけを耐力壁で負担し、鉛直荷重は柱や梁で負担しているので、耐力壁が壊れてしまっても、柱が壊れる角度=変形量まで傾かなければ、建物は倒壊しないと考えられます。
 それと、耐力壁が二次設計を超えて壊れてしまっても、一気に耐力がゼロにはならず、ゼロに向かって壊れていく時間があります。その状態は塑性化しているので、地震力が加わり続けても力を逃がしている状態が起きています。
 塑性化してから破壊までの時間が稼げるほど、二次設計以上の地震に対して余力を持っていると考えます。
 
 まとめると、
(1)耐力壁が二次設計=最大耐力を超えたとき、層間変形角ができるだけ小さく抑えられている方がいい。(傾きが少ない方がいい)
 それは、傾きが大きいと、柱が重量を支えられずにつぶれてしまうので、耐力壁が壊れると一気に建物も倒壊してしまう可能性が高くなるからです。
(2)耐力壁が二次設計=最大耐力を超えても、一気に壊れないものの方がいい。(粘り強い方がいい)
 それは、筋かいだと折れたり仕口が壊れたら、そこから一気に耐力を失います。
 合板だと、面が壊れ始めても、合板周囲を固定している釘が抜けてしまわない限り粘ってくれます。
(3)耐力壁の配置数を多くする。
 それは、耐力壁の数が少ないと、一ヶ所あたりが負担している割合が多いということなので、それだけ耐力壁が一つ壊れると倒壊に進む速さが早くなります。耐力壁の数が多ければ、一ヶ所壊れても建物全体はちょっとずつ耐力を失っていくことになるので、倒壊までに時間稼ぎができます。.
 ちなみに個人的には、耐力壁は合板よりも筋かいの方が好きです。
 理由は、合板は接着剤で作ったものだし、釘をたくさん打ちつけて固定するので木が痛々しいと感じるからです。他にも、気密性が上がるので湿気の問題があったり、接着剤もどれくらい持つのかわかりません。釘と合板の間で結露も起きます。
 地震は一方向からの加力ではなく繰り返し荷重なので、釘だとゆるんでいくように感じます。筋かいは圧縮で考えるので、めり込むだけで効きに変化は無いように感じます。
 筋かいは、壁倍率を低く抑えれば、筋かいを固定する金物の釘の数も少なくて済むので、いい感じです。
 いい感じなんですが、粘り強さの面から言うと、部が悪いです。
 
 どうしたらいいのか(-_?).。o0O(考え中)
 
■筋かい耐力壁について考える
 筋かいは、入れる方向(傾け方)によって、/と\があります。方向性ができてしまいます。
 筋かいの壁倍率は/と\一対で行った試験データから決められているそうなので、方向性が出ないようにする方がいいということです。.
 ということで、たすき掛けXで使うことを心掛けることが第一です。
 
 筋かいは、大きな力がかかるとたわんで壁面の外にはみ出そうとします。そうなると、折れてしまう可能性が高くなるということなので、大きい壁倍率の筋かいは使わない=小さい壁倍率の筋かいをたくさん使う方が安全だと思います。.
 それと、壁倍率が低い筋かいは、30x90が1.5倍です。圧縮筋かいの寸法は30x90以上と決まっているので、このサイズを使うのがいいことになります。
 ただ、現場では30x90の筋かいだと、固定する釘が筋かいを突き抜けてしまって、頼りないので45x90にしたいと言われます。
 そこで、壁量計算では30x90を使い、それに対する引き抜きと金物を選びます。現場では45x90にしても、金物の耐力は30x90用しかないので、それ以上は筋かいが機能しない=リミッターがかかった状態になります。
 
 筋かいのたわみを防止する為には、筋かいを見せる納まりにはせず、大壁としてボード類でサンドイッチしなければなりません。.
 参考書籍の実験データによると、筋かいは接合部よりも部材そのものが破壊し、合板は接合部が先に破壊するという結果になったそうです。
 接合部の破壊は、そのまま建物の倒壊に繋がっていくので、耐力壁が壊れても接合部は壊れないことが望ましいです。
 そのことから考えると、筋かいの方がよさそうです。

Dsについて
7000065369700uf.pdf
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