木造住宅の耐震改修に対する行政の考え

公開日:2010/10/15 23:49

 既存住宅の増改築時に関係してくる耐震補強工事。
 個人のお客様に対する負担が大きいものになっています。
 老朽化した建物を、お金をかけてまで補強するのは、
お客様の経済面・生活面から見ると現実的では無い場合が出てきます。
 
 新築に建て替える資金が無いから、お金をかけないように増築や改築などのリフォームで済ませようとしているのに、
耐震補強の費用が余分にかかってしまう。
 「国はどうして個人に無理な注文をするのかな?」
 と疑問に思ったので、調べてみました。
 
 すると、静岡県の報告書が見つかりましたので、読んだ内容を私の意見も書きながら掲載しようと思います。
 ご参考にしてみてください。
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「静岡県住宅耐震改修等促進方策検討委員会報告書」
              平成13年1月
              
 静岡県住宅耐震改修等促進方策検討委員会名簿
  東京大学工学部建築学科教授
  県住宅部建築総室長
  教育委員会
  などなど総勢たるメンバーで構成されています。
  
 目次
  はじめに
  1.既存住宅の耐震措置についての基本的な考え方
  2.県内の既存木造住宅の耐震対策の現状
  3.耐震診断、耐震改修等が進まない理由とその解決の方向
   (1)耐震診断はなぜ進まないのか
   (2)建て替えや耐震改修はなぜ進まないのか
   (3)それではどうすればいいのか
  4.具体的な対策
   (1)耐震措置が必要な住宅の効率的な把握と耐震診断の推進
   (2)耐震改修実施のための障壁の除去
     (2-1)簡便で安価な耐震措置の開発
     (2-2)助成制度の検討
     (2-3)専門家による相談体制の整備
   (3)広報と情報提供
   (4)自ら耐震措置ができない人達への配慮
  5.既存木造住宅の耐震改修等を促進させる20の提案
  おわりに
   
 という内容で報告書は構成されています。
 
 はじめに
  平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災では、
死者の8割が倒壊した家屋や転倒した家具の下敷きになることにより発生しており、
地震による人的被害を軽減する為には、住宅の耐震性の確保が極めて重要であることが改めて明らかになった。
 また、住宅を失った人たちは、避難所や仮設住宅で困難な生活を余技なくされ、
建設資金の不足など様々な理由から住宅再建が遅れることも多く、生活の再建が進まないばかりでなく、
地域コミュニティの崩壊や地域経済の復興の遅れの一因になるなど、被災地の復興に大きな影響を与えた。
  
 多数の住宅が失われたことに伴い、応急仮設住宅や災害復興公営住宅の建設などに
多額の財政負担を発生させたことも見逃すことができない点である。
 このような事実を見れば、あらかじめ地震に強い住宅づくりを行っておくことが、
人命を守るという視点からはもちろん、生活や経済の再建などの視点からも
極めて重要であることは論を持たない。・・・以下省略
 
 ということです。ようするに、.
 ・大地震が発生した場合の死亡原因になるのは住宅によることが大半を占めていること。
 ・被災後、何も無くなった状態から個人が生活を立て直していくには、相当な苦労が必要になること。
 ・復興支援の為の国の税金投入も、高額になること。
 などの理由から、事前に対処しておいたほうが、被災してから対処するよりもいろんな面から
負担が少ないという考えに基づいて、耐震改修が必要と判断しているようです。
 .
1.既存住宅の耐震措置についての基本的な考え方
 阪神・淡路大震災における建築物の被害状況をみると、
建築基準法に新しい耐震基準が採用された昭和56年6月以降に建設された建築物には、
被害が少なかったのに対して、それより以前の基準で建設された建築物、
とりわけ老朽化した木造住宅に被害が集中し、これらの老朽化した住宅の倒壊が
多くの死傷者を出す要因になった。・・・以下省略
  
 ということで、
 昭和56年6月以前に建築された住宅は、かなり危険ということがわかったということです。
  
  委員会は、30年以内に発生すると思われている大地震に対しては、
  新基準で早急に建て替えることが最も望ましいと考えています。.
 でも、建て替えには相応の費用がかかることから、実際には短期間で建て替えてしまうことは困難。
  
 それと、旧基準で建築された木造住宅であっても、相当の耐震性を持っている建物も少なくないと考えられる。
 それらの建物については、何らかの耐震措置が必要なのかどうかを、まずチェックすることが必要。
  
 個人の資金面などの問題から、建て替えや本格的な耐震改修が難しい場合には、.
最低限居住者自信の命だけは守れるように、部分的な耐震補強、就寝中の防災器具なども視野に入れて、
耐震措置について居住者が多様な選択が可能になるようにしていく必要がある。
 
 しかし、現実は確認申請が必要な増改築については、そんなに選択余地は無く、
建物が棟続きになる場合には、耐震診断に基づく「一応安全である=1.0」の基準を満たすような
耐震補強工事が必要になってしまいます。
 
2.県内の既存木造住宅の耐震対策の現状
 これは、静岡県の話なので省略します。
 
3.耐震診断、耐震改修等が進まない理由とその解決の方向
 (1)耐震診断はなぜ進まないのか
  ①老朽化した住宅で生活している人は、耐震診断などしなくても自分の住んでいる
   住宅の耐震性能に問題があることは、ある程度承知しているということ。
  ②耐震診断をすることで、建て替えや改修の費用を工面しなければいけなくなるなど、
   面倒な問題が改めて顕在化するということ。
  ③大地震が本当にくるのかという、切迫性などにいまひとつ確信が持てないこと。
  
  など、委員会も個人の心情を理解している様子です。
  
 (2)建て替えや耐震改修はなぜ進まないのか
  ①耐震措置に要する費用は、建て替えの場合はもちろん、耐震改修を行う場合でも相当の費用になると見込まれること。
  ②居住している住宅を建て替えたり改修したりするには、面倒が多いこと
  普通の人なら、人生の中で何度もない大事業である。
  ③高齢者世帯の場合は、費用の点もさることながら、いまさらそのような大事業に取り組むのは
   億劫だと考える人が多いことも見逃せない。
  ④耐震措置が必要なものでも、
   A:建て替えが必要なほど老朽化が進んでいるもの
   B:耐震改修で済むもの
   とに分けられる。
   Bについても、
   a:柱の交換、筋交いの補強など本格的な工事が必要なもの
   b:金物補強程度でいいもの
   に分かれる。
   その基準が、一般の人にはわからず、専門家の判断が正しいのかもわからない。おまかせ状態になってしまうということ。
  従来は、普段から住宅の修理や改修をしてくれる、自分の住宅の様子をよくわかっている
  大工さんの存在があったから、気軽に相談できる場合も多かった。でも、近年ではそのような人が少なくなってしまったこと。
  ⑤耐震改修の相談窓口が不足
   気軽に相談したり、予算の範囲内でとりあえずの措置を頼むことが難しい。
   工務店などに見積を依頼すると、建て替えや本格的な改修を進められて、
  相当の費用を提示されるのではないかという不安もある。
  
  など、いろいろな理由が絡み合っていることがわかります。
  工務店の見積に関しては、本格的な改修工事の見積になっても仕方無いと思います。
   中途半端に一部だけ補強をしても、建物全体のバランスを考えて補強しなければほとんど意味が無いこと。
   補強をしたとしても、それで100%大丈夫とは保障できないこと。(柱や梁などの木材自体が老朽化している等)
  
・・・以下省略
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 報告書を読んでみて、耐震補強を進めないといけない理由や、なんで進まないのかも行政は把握していることがわかりました。 
 個人への負担が大きいことも承知だけど、それでも耐震補強を進めないといけないということでしょうか。
 国が細かく規定するのには限界があると思います。
 私達建築士が、お客様の条件を考慮しながら最善の提案をしていくことが大切だと思いました。