耐震診断での必要耐力について

1.はじめに
 木造住宅の耐震性を計画する上で、目標となる数値=必要耐力をはじめに求めることになります。
 この必要耐力ですが、新築の”壁量計算”と、既存建物の”耐震診断”とで数字に違いがあります。
 この数字の違いは何を意味しているのかについて、検証を行いました。
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2.新築での必要耐力について.
新築での必要耐力は、壁量計算により算出します。
必要壁量を求める為の地震力用係数(cm/㎡)は、
 重い屋根(2階建) 1階=33 2階=21
です。 
 これは、必要耐力を算定しやすいように、耐力壁の長さで拾えるように耐力を長さに置き換えています。
 
 耐震診断での必要耐力と比較する為には、壁量の地震力係数を水平耐力に変換する必要がある。.
 壁倍率1.0の壁の強さは、1mあたり1.96KNなので、
 33cm/㎡=0.33m/㎡ 0.33*1.96=0.6468→0.65kN/㎡となる。
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3.壁量計算と耐震診断での必要耐力の比較
 
 壁量計算では、
 重い屋根(2階建) 1階=0.65kN/㎡ 2階=0.41kN/㎡
 
 耐震診断では、
 重い屋根(2階建) 1階=1.06ZkN/㎡ 2階=0.53ZkN/㎡
 Zは、地震地域係数であり、耐震診断ではZを考慮しているが、壁量計算では日本全国一律である。.
(2)1階必要耐力の比較
 壁量計算=0.65kN/㎡ 耐震診断=1.06kN/㎡(Z=1.0とする) となっており、この違いは何かについて検証する。
 
 ①壁重量の違い
  必要耐力の前提条件となる、建物の重量条件として、壁量計算では、壁は木ずりしっくい壁で考えているが、耐震診断では土塗壁になっている。
 木ずりしっくい壁+軸組み=490N/㎡
 土塗壁=1200N/㎡
 
 ②軒の出の考慮
  壁量計算の場合、想定している軒の出は45cm程度と考えられます。(別紙:壁量の根拠 参照)
  耐震診断が想定する古い建物の場合、軒の出はもっと大きいので、考慮が必要です。
  軒の出60cmとすると、床面積52.17㎡(3間半*4間半)の場合72.79㎡となり、1.395→1.4になる。(軒の出45cmの場合は1.3)
 (1.4*900+1200/2)= 1860N/㎡→1.86kN/㎡
 
 ③必要耐力の計算
 壁重量の違いの考慮、軒の出の違いの考慮を踏まえて、必要耐力の計算を行うと以下の通りになります。
 (計算式は、別紙:壁量の根拠 2.建物の重量の算定を参照)
 2階=0.2*1.4*1.86=0.5208→0.53
 1階=0.2*(1.86+0.6+2.2+0.6)=1.052→1.06
  ここで、建物重量
   0.6=床荷重
   2.2=壁荷重
      階高2.73m 床面積52.17㎡の場合、壁面積79.5㎡(全て壁の場合)
      外壁=1200N/㎡ 間仕切=200N/㎡
      1400*79.5=111300 111300/52.17=2133.4→2200N/㎡
   0.6=積載荷重(家具など)=600N/㎡…地震力算定用
 
  ※壁量計算の壁荷重は、開口部分を考慮して端数を切り捨てていますが、耐震診断の場合は、安全側として切り上げしているようです。
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4.まとめ
 新築での壁量計算と、既存建物の耐震診断、それぞれに必要な耐震性を検討する上での必要耐力については、数値の根拠となっている考え方に違いは無いことがわかります。
 建物重量が、耐震性を考える上で重要になります。
 
 
参考文献
 ・木造住宅の耐震診断と補強方法
 ・実務から見た木造構造設計
 ・地震に強い「木造住宅」の設計マニュアル
 ・建築技術2006.10「木造軸組住宅の壁量計算と構造計画」
 ・木造住宅設計者の為の構造再入門