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「二つのプランニングアプローチについて」

 住宅販売会社さんで商談中のお客様のプランニング依頼があり、住宅計画をおこないました。そのこと通じて、住宅市場の住宅計画と設計者が行う住宅計画の違い、createかmanufactureか、というようなについて。
 といっても、どちらかを肯定したり否定したりというわけではなく、いろいろな住宅の形があり、今の日本社会をつくっているわけですから、住宅文化だと思います。
 住宅市場で常識として行われている家づくりの片鱗が、ここにあります。

 まず、住宅販売会社さんの営業担当の方に、建築地を案内していただきました。
 お客様(施主)の家族構成や外観デザインの要望、予算金額(により、坪単価設定からだいたいの延床面積を想定)を伺い、プランニングを実施。コストを意識しながらの計画。


Plan1提出

 数日後、Plan1の検討結果の連絡がありました。プランの修正というかやり直しを希望されています。
(1)駐車スペースを南側に。(法律上の採光ではなく、南側居室を明るくしたい。)
(2)建物出隅をなるべく少なく。(弊社坪単価にて施主に提案するため、建物単価のコストダウンを図りたい)
(3)バルコニーは主寝室に面していること。
(4)延床面積を28~30坪程度で。(各室面積は延床面積に準じて小さくしてOK)
施工床面積にて坪単価が設定されています。施工床面積は、バルコニー、ポーチを含んだ面積になります。建物形状が水平投影によって、各階出隅一ヶ所につきオプション金額が設定されています。下屋も坪あたりのオプション金額が設定されています。なので、予算の都合上、面積の制約が厳しくなることが多いです。出隅や下屋がないほうが、営業としては提案しやすいです。

 延床面積は建築基準法で決められた算定方法で、玄関ポーチやバルコニー、吹き抜けは床面積には入りません。でも、実際工事するには手間だったり足場などの仮設材だったりが発生し、コストがかかります。そういうコストを見積りに反映するために、施工面積という考え方が住宅市場では使われます。
 さらに、今回の住宅販売会社さんは、建物の形状によっても割増金額の設定をされているとのこと。真四角な総二階の箱のようなシンプルな住宅が、コストパフォーマンスがあります。
 ところで、Plan1に対してのダメだしをいただきましたので、そのフォローを書いておきます。
■駐車場配置について
 駐車場をあえて北側にしたのは、庭と駐車場を分離するため。の配慮。駐車場から玄関アプローチへの動線もコンパクトになり、庭とそれに面したリビング空間と、来客者の玄関アプローチへの動線・視線を分離することで、庭を落ち着いたプライベート空間とすることがねらい。
■バルコニー配置について
 バルコニーを子供室側に面して設置したのは、布団や洗濯物をバルコニーに干す際に、主寝室を通らないようにするため。また、バルコニーで何か家族の団らんの際にも、主寝室が通路にならない配慮。
 子供部屋に面すると、子供部屋の独立性が保てない(子供が嫌がる)という考えがあるが、子供部屋が独立しすぎるのはどうかと考える。リビング内階段を設置することで、子供と親の繋がりを確保しようとするなら、子供部屋に子供が閉じこもってしまうのはいかがなものか。子供部屋を親が気兼ねなく出入りできる親子関係を築いていくことが必要なのではと考え、子供部屋に面してバルコニーを設置。

 なにはともあれ、要望に対してプランを作成。


Plan2提出

 それから数日後、1Fに和室があるプランを再度希望がありました。
Plan2の内容で和室を組み込むのか、それともまったく新しい間取りで和室を組み込んだプランということなのか。
(Plan2は、和室を考えずに部屋の繋がりを考えたプランなので、そこに和室だけをぽいっと挿入すると、部屋の繋がりに違和感が起きてしまう。できれば全く新しくプランニングした方がいいと思う)
 よくわからないので確認したところ、返答をいただきました。

1F LDK14~16帖
  和室4.5帖 収納有り リビング続き間で。
  UB、洗面脱衣室、トイレ
  駐車スペースは南
2F 寝室6~8帖 ウォークインクローゼット、収納等(ウォークインクローゼットのみでも可)
  子供部屋x2 4.5~5.5帖 各部屋に収納
  トイレ、バルコニー標準サイズ(W3640 D1300)
各室床面積増減は多少OK。延床面積29坪~32坪くらいで、建物の外観はなるべき出隅がないように。
 プランは作り直してOKとのことでした。


Plan3提出

 ここまでが、住宅市場でのプランニングです。
 一方、設計者のプランニングはどんなふうになるのか、同じ諸条件で計画してみました。


Plan4
 玄関ポーチまでのアプローチは、2Fオーバーハング部分の下をトンネル状に通ります。閉鎖的な感覚を通る人に感じさせ、家の中に入ってからの広がり・解放感を強調する演出です。
 庭部分を外部からの視線をできるだけ遮り、プライバシーを確保することでリビングと庭の連続性をつくります。庭を開放的に利用することができます。
 大胆に吹き抜けをとることで、上下階の連続性・空間の一体化をつくります。
 バルコニーは壁で囲い外部からの視線を遮り、室内との連続性を確保することで一体的な空間にします。
 限られた敷地・住空間を、可能な限り有効に使い、空間の広がりを演出することを大切にしたプランです。部屋の使い勝手という物理的な要素だけで住宅を構成するのではなく、視線・視覚・遠近感といった感覚的な要素を含んだ住宅として構成することに努めています。

plan1.pdf
PDFファイル 1.0 MB
plan2.pdf
PDFファイル 130.0 KB
plan3.pdf
PDFファイル 118.7 KB
plan4.pdf
PDFファイル 6.4 MB