設計士にマイホームを注文するのはおすすめしません

Question:なぜ、設計士に新築住宅を注文しようと思うのですか。
Expectation:住宅販売会社は、規格の中から選択することでしか家づくりができない。規格外のことをしようとすると、割高になる。心から望む家を手に入れることができない。
 設計士なら、要望を形にしてくれると思うから。
 ただ、設計士はこだわりが強そう、頑固そう、変った人が多そうなので、心配。
 それと、設計士に頼むと費用が割高になると思う。

計士といっても、建築家や設計事務所があります。
法的に、設計士=建築士の資格をもっているだけでは、業として営むこと、お客さんからの注文を受けて業務を行うことはできません。建築士事務所登録をして設計事務所として運営することが必要になります。なので、一人で自営業をしている設計士であっても、看板は設計事務所になっています。
お客さんが求められているのは、一人の設計士の設計事務所なのか、設計事務所に雇われている所員設計士なのか。
建築家というのは、自称の方もいれば建築家協会に属する方もいます。建築家という資格は無いので、陶芸家や芸術家のような、作品をつくる・作風を持って設計業を行っている設計士が、建築家と呼ばれたりします。

計士・設計事務所が、住宅市場で競争を生きていくためには、独自性や優位性が必要になります。代わり映えのないどこに頼んでもできる仕事だと、競争に負けてしまいます。そこで、デザインに優位性を持つか、設計料に優位性を持つか、何かの特徴が必要になります。そのため、作品づくり・作風を持ち建築家と呼ばれる(または自称する)ことも、生きていくための方法だと思います。
ですが、優位性を持たないことを優位性にしようとしている設計士もいます。

宅販売会社・・・ハウスメーカー、フランチャイズ、建設会社、工務店をひとくくりにした呼び方です。
住宅販売会社は、固定経費がかかります。事務所家賃、従業員給料。従業員も、営業・設計・工務・事務と役割分担して業務を行っています。経費がかかるので、それを平準化するために、販売する住宅を商品化します。

準化とは、商品1個を製造するのにも、100個製造するのにも、同じ作業員数、同じ製造施設を維持するための経費が必要です。たくさん製造し販売することで経費を振り分けて商品価格にのせて販売すれば、商品価格1個あたりに対する経費を少なくすることができます。
商品化とは、デザインや使用する材料を標準化・規格化することです。商品かすることで、製造・管理のルールをつくることができ、効率化・品質管理ができるようになります。誰が作っても同じものが作れる。商品化すると、同じ材料を仕入れることになるので、材料コストを下げることができます。同じことが製造する作業員の人件費にも言えます。ただ、1商品しかないとお客さんはあきてしまうので、商品にバリエーションを持たせたり、オプションを設定したりします。

宅販売会社は、固定経費だけでなく営業経費も平準化することができます。資本力があれば。宣伝広告がおこなえたり、新商品を開発したりして、更に売上アップ、するとまた宣伝広告・新商品開発・・・と雪だるま式に成長していきます。住宅販売会社が成長すれば、CS向上の取り組みや、アフターメンテナンスの充実等で、顧客の利益に反映されます。

益を得る事が、悪い事のように扱われる風潮があると思います。しかし、利益が無ければ会社は成長できないので、商品の品質向上や新商品開発などができず、結局は顧客の利益に反映されないことになります。
ですので、利益は必要なことです。
ただ、利益を得るという会社の都合で、お客さんの都合が二の次にされることが悪い事です。
会社の都合というのは、決算月に成績を良くするために受注契約を急ぐとか、その為に、値引きの不公平を許容するなどです。
受注契約を急ぐとは、お客さんがまだ決めかねている事があっても、考える時間を与えず強引に進めてしまうことです。といっても、お客さんの同意が無いのに進めることはできませんから、同意させるためにプレッシャーをかけることです。
値引きの不公平とは、お客さんAさんには、2割引きしたのに、Bさんは1割引きしかしないとか。決めている利益が出ない価格でも、販売してしまうとか。そうすると、BさんはAさんの分を払っていることになります。(考え方では)
会社都合だけでなく、営業担当の成績の都合もあります。
では、設計士は利益を得ないのか、受注契約を急ぐとか、値引きの不公平は無いのかということですが、設計士も人によってはあると思います。ただ、そういうことをする人かどうかは、事務所の姿やその人の業務の進め方などを見ると、隠せるものではないと思います。利益をとったところで、額が知れてますし。設計監理料は、せいぜい工事費の1割です、消費税程です。その中で、1割2割利益を増しても、20万円程です。(いやいや、20万円でもエアコン3台買えます)住宅販売会社だと、請負額に対しての1割2割ですから、200万円程になります。

宅販売会社の商品設定に無いことをしようとする場合は、それだけ特別な経費がかかることになったり、平準化が機能しなくなりますので、割高になったり、対応してもらえない場合が生じます。

風を持つ建築家に注文する場合も、住宅販売会社で商品を購入する場合と、あまり変わらないかもしれません。作品に惚れたので、作品としての住宅を購入するなら、商品と同じで建築家に注文したのでいいと思います。
作品でも商品でもなく、自分の形をつくろうと思うのでしたら、設計士に注文です。

計士は、固定経費や営業経費もほとんどありません。ですが、平準化することもできません。そのため、建設費と別に設計料がそのまま必要になります。
一方で、商品を扱っているわけではないので、何でも造れます。どんな形でも、どんな材料でも、望むままです。(法令順守や品質に問題が無い中でですが。)望むものを実現するために必要になる費用も、見積をとって確認・検討できます。ただ、平準化できないので一般的でないものを選ぶほどに、高価になります。しかし、望むなら、手続きしてでも、構造計算してでも、実験してでも、どこまででも足を運んででも、造ることができます。

宅販売会社の商品は、関わる人全てがルールの中で行動していますので、極端に言えば機械的です。職人さんであっても、商品を造るルールの中でしか行動できませんし、ルールで管理されていますので、まるでロボットのようです。だからこそ、高品質であり、効率的です。
設計士は、お客さんの望むものを具体化することができます。しかし、何を望まれているのかは漠然としているので、引き出す作業、理解する作業が必要になります。コミュニケーション能力が必要です。人と人(お客さんと設計士)のコミュニケーションですので、十人十色千差万別で道のりの長さが変わります。相性が重要になります。
住宅販売会社では、窓口になるのは営業担当であることが一般的です。営業職はコミュニケーション能力が高く、話術に長けています。多少相性が悪くても、商品なので誰が担当でも同じものが手に入ります。設計担当と工務担当に引き継ぎますが、ルールによって作業が進められていきますので、相性が悪くても注文した商品が完成します。
設計士は、話術が苦手な人もいます。基本デスクワークの人ですから。価値観や感性、性格、人間性が家を具体化する際に影響します。また、設計図が完成しても、職人さんに家を造ってもらわないといけないので、職人さんとの相性

計士に注文して、設計士が破算してしまったとか、廃業してしまったとか、大きな怪我や病気で休業してしまうというリスクがあります。
住宅販売会社に注文して、倒産してしまったというリスクがあります。営業担当が退職ということなら、担当が変わっても同じ商品が手に入りますのでリスクは回避できますが。
また、設計士に注文すると、工事を別途職人さんに注文しないといけないので、その職人さんのリスクもあります。設計士と職人さんに注文するのと、住宅販売会社に注文するのと、どちらがリスクが少ないか。それは住宅販売会社の方が資本力があり、取引銀行もそうあっさりと倒産させたりはしないでしょうから、リスクが少ないと思います。個人を相手にするのはリスクが高いと思います。

計士に注文することは、経営リスクを確認し、相性を確認し、煩わしいことがたくさんあります。そんなに煩わしいなら、住宅販売会社で商品を購入した方が楽でしょう。
しかし、煩わしいですが、人と人の関係で家づくりができます。職人さん達の人柄、心意気、うまくいけばみんなの心が一つの目標に向かって、団結して造り上げてくれます。完成した後も、その思いで関係は続いていくでしょう。職人さん達のプライド、信用というある意味命をかけた仕事です。大変なことですが、人と人の関係とはそういうものだと思います。

計士の立場で言うのもなんですが、よほどでなければ住宅販売会社で商品を購入する方がいいと思います。設計士で家を手に入れようと思うと、長い道のりになります。計画から完成・入居まで1年以上平気でかかります。住宅販売会社なら、最短で半年くらいで入居できてしまいます。仕事をしながら家の事を考えて、情報収集して打合せして、夫婦で相談したりあちこち走り回ったりして、とても大変です。
そして、予算の調整作業も苦労します。計画中にどんどんと膨らんでいく夢と希望、予算オーバーになってしまうので、削る作業が必要になりますが、これが夢をどんどん奪われていき、現実を嫌というほど見せられることになります。商品購入なら、メニューから選ぶときにすぐに金額もわかるので、そこまで予算オーバーになることはありません。
自由は不自由です。

後に、それでも設計士として孤人設計事務所として仕事をしている理由。
住宅に求めるものが、物質的な豊かさ=幸福という考え方は、高度経済成長期で終わったこと、バブルが崩壊して終わったことだと思うわけで、今は精神的な豊かさ=幸福という考え方になっているはずです。しかし住宅市場は相変わらず物質的な豊かさが求められているし提供し続けている。だから商品としての住宅に需要がある。それでも、精神的な豊かさを求める人もいるはずなので、自分はその人の為にこの仕事をしている。精神的な豊かさを造りだすことが、商品化された住宅でどこまでできるのか。メニューから選択して組み合わせる方法で、どこまで豊かな空間を造りだすことができるのか。そこには人の感性が無ければできないと思っている。ロボットが造るのではなく、人が造らないと。その為に、設計士と職人による煩わしい家づくりの存在意義があると思います。